さてさて。時は室町。所は京都。
名を一休という頓智で評判の小僧がいた。
が、これはカカイル文であり、いちいち変換するのも面倒なので以後カカシと表記する。

カカシが、いつものように早朝、寺の周りを掃除していると、遠くの方から自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
新右衛門(だがこれはカカイル文であり略、以後イルカと表記する)がやってきた。
イルカは武士であり、カカシとは気のおけぬ友人(誤記有)ではあるのだが、用がないと、ここには来てくれない。
つまりは、彼がここにくるというのは、彼がまた無理難題を抱えているのだと相場が決まっているのである。


「イルカ、今度はどうしたの」
箒片手にカカシが問いかけるのに、イルカは眉を思い切り下に下げた。
「カカシさん・・・また、将軍様が…」
「だろうね。で?なんて?」
「異国のお祭りを体験したいと」
「つまり、時期的にはクリスマスという事だね」
「そうなんですよ。クリスマスをやりたいと三代目が唐突に言い出しまして」
カカシも、なんと無茶を言うのだろうと呆れてため息をつくと、
イルカも益々項垂れて嘆くふりをした。
それを見てカカシも苦笑を返す。

「で、それにイルカは何て言ったの?」

「『無理言わないでください。まだキリスト教は伝来してませんよ』」

「相変わらずそういうのに厳しいねイルカは。もうそういうのは関係なしにしないと話進まないよ?」
「いいんですかねえ。歴史を無視して」
「今説明したからいいよ。で、俺に一緒にクリスマスを祝う準備をしてほしいと、そういう事だね?」
「そうなんです。仏僧である貴方にそれを頼むという鬼畜、本当にすいません」
「それも、まあ、無視の方向で。でないと、何もできないからね!では、考えましょうか」
「お願いします」


と、まあ説明的な前置きも長々とございますが、ここに始まりまするは、
上記の会話とは全く関係のないお話しでございまして。
ただの長閑な一日に、一石を投じるような、ある事件から話は始まります。

それでは、ここより、開幕、開幕。


一休=カカシ
新右衛門=イルカ
将軍=三代目

・・・

「イルカや。ちょっとこっちへ」
主である、三代目将軍が手招きをするのに、
イルカは誰も居ない道場で竹刀を振り上げていた手を下げた。
そして三代目の元へかけよった。
「おはようございます。三代目」
「うむ。お主も毎日精が出るのぅ」
「有難うございます。で、どうかされましたか?」

「実は困った事があっての。お主のこいび・・・いや、友人の知恵を借りたいのじゃ」

そういって三代目がこちらをちらりと見やる。
この顔は、知っている。いたずらを企んでいる顔だ。

三代目は以前、イルカの恋人に、まんまとやられた過去があるのだ。

これは、また面倒な事に巻き込まれたのだな、と肌で感じ、少し胡乱な目で三代目を見ると、
それに気づいたように三代目も肩を竦めた。
「そんな怒るでない。これは儂にとっても不可抗力な事態なのじゃよ」
と、普段のいたずらも水に流せといわんばかりの主の言葉に。
深くため息を付きながら、
イルカは「では詳しいお話しを」と諦めたように右手を上げるのだった。

・・・

場所は変わって、将軍の部屋。
三代目はそわそわしながら、これみよがしに布をかけられている屏風状の板のようなものを眺めている。
その隣には、例の屏風だ。
以前、将軍が、カカシの頓知を試すために利用した、虎の屏風である。



「カカシよ。実は、この屏風の虎が、夜な夜な外に出てきて皆を脅かすのじゃ。非常に迷惑をしていてのう」
「なんとまあ」
「そこで、頭の良いと評判のお前にこの虎を退治してほしい」

退治と聞いて、一瞬目を丸くしたカカシに、三代目もニヤリと笑う。
「まあ、無理なら良いのだ。お主もそこまでということ」
三代目がニヤニヤしながらカカシを舐めまわすように台座の上から眺める。
カカシは少し俯いてしまい、表情が読み取れない。

三代目は益々調子づいて「無理か―、流石のお前も無理か―」と嬉しそうだ。

「まあ良い。ただし、退治できんのなら、その代わり、イルカと付き合うのはやめ」
言いかけた三代目を無視しながらカカシはスックと立ち上がった。

カカシの見下ろすような目線に三代目が少しのけぞるが、
三代目も仕掛けた以上は後にはひけないらしい。
なんじゃ無礼をはたらくつもりか!と少しだけ声を荒げて隣に待機しているイルカの腕に抱きついていた。

カカシは、僧でありながら、眼光が鋭い事この上なしなのである。
それを目線でイルカに責められながら、
カカシは、ゆるゆると首を横に振り、ため息をついた。

そして「了解いたしました」と、言いながら踵を返し、床の間に飾られている槍を持ってきた。

屏風の虎に向かって、槍の切っ先を向けながら言い放つ。

「今、屏風の中にいるのがお前の運の尽きだ。悪く思うなよ」

カカシは、部屋の端までゆっくり歩いていき、そしてくるりとこちらに振り向いた。
そして助走をつけながら走ってきて、
大きく振りかぶって。

「待ったカカシさ」

イルカが途中で気づいたのも、時既に遅し。
カカシは、見事なまでの美しいフォームで槍を投げ。

槍は、イルカに庇われた三代目の頬をギリギリかすめながら弧を描くような軌道で飛んでいき。

三代目の背後に鎮座する、屏風の虎の頭を思い切り。


突き破った。


一瞬何が起こったか判らなかった三代目も、
槍が屏風を突き破り、畳に刺さるビヨヨヨーンという音にハッとする。
「三代目、お気を確かに・・・」
イルカが慌てて落ち着かせようと背中を撫ぜるが、それも間に合わなかったようだ。

三代目が叫んだ。

「ぎゃあああ!なんて事をするんだお主は!これは先祖代々から伝わる…」

三代目の背後でイルカもカカシを睨むが、カカシはどこ吹く風だ。
「でも、夜な夜な虎が出てきて困っていたんでしょ?いくら虎といえど頭がなければ動けません」
「な、なな…!」
「それとも、はて、まさか、将軍様、俺を試すために嘘をつかれたのでしょうか?」
「あ・・むぐう!」
「そんな訳もございますまい。将軍たるもの人民の命を憂うお心遣い、流石でございます。
そのためなら国宝の屏風すらも破れようと厭わない」
「うぐぐぐぐ…!き、きさま・・・!」

「このカカシ、確かに将軍様のご命令通り、虎退治の任務を無事遂行させていただきました。では」

呆然としている三代目を横目に、カカシが裾を華麗にさばき
一礼ののち、部屋から出ていく。

イルカは。
泡を吹く三代目の背をさすりながら。
虎の顔にぶっ刺さった槍を見て、
「この後の後始末を全部引き受けねばならないのか」と大仰にため息をついたのだった。





この記憶は新しい。
なぜなら、件の事件があったのは、先週の話だからだ。
そして、今。再び三代目がカカシに相談したいと言っている。
仕返しとばかりに、あからさまに何か仕込んでいるであろう事は、想像に難くない。

とはいえ、イルカがそれに気をもんでも仕方がないし、
カカシはカカシで勝手になんとかするので、
イルカの心配事は、ただただ、後始末が面倒にならないかどうか、のみなのである。


「で?今度は何が夜な夜な出てくるんです」
「お主のその察しの良さは時々ムカつくときがあるのお」
「光栄でございます」
澄ました顔で言うと、三代目もじとりと睨むが、これからの面倒を考えればこんなものは何でもない。
それが判ったのか、三代目はすぐに切り替え、右の手の甲をほほに宛て、イルカに擦り寄ってきた。
「実はの」
声を潜めて、内緒話のようにイルカに顔を近づける。


「幽霊じゃ…」


イルカが顔を判りやすい位に歪めた。

「でたよ…クリスマスの童話企画に一休さんを題材に選んだだけでもオカシイのに、更に季節感まで台無しにする設定」
「これ、いくら「ぱろでい」が苦手だからといって、メタ的な発言をするでない!これを見よ!」
「うわあ…」

三代目が背後にあった白い布をがばっと取ると、そこには、
夢に出てきそうな程のおどろおどろしい女性の幽霊の絵があった。
「柳、血、…鹿?」
「まあ。あれじゃな。一応クリスマスらしくしてみたんじゃ」
「柳はもみの木か…、サンタの色は血の色じゃないですけどね…、鹿はトナカイ…」
「うむ!説明ご苦労!そして、今度は、なんと!石の壁に描かせた!」
「思いっきり自分で用意した事をバラしてるじゃないですか。何が不可抗力で困ってるだ。
で?それをカカシさんに見せて何というつもりです」
「決まっておろう、『夜な夜な、幽霊が出てきて困っておる』。今度は石だから槍でも壊れんし、
万が一、壊されたとしても相手は幽霊じゃ。死なんわなあ。な。どうじゃ今度は勝ったろう?」
自信満々に胸を張る三代目に、イルカが呆れたようにため息をつく。
「ははあ…確かにこの間のように槍で壊す事は出来なさそうですが、しかしね。三代目…」
「なんじゃ!今回は完璧じゃろ!?これでお前を取り戻せるわ」
「取り戻すというか。いえ、しかし、三代目。一つ失念していることがありますよ」
「お前も、あんな変な坊主にひっかからんと。ワシがちゃんとした人を紹介してやるからな」
「いや、あの」
「それには、まずヒルのようなアヤツを引き剥がしてやらんとならん。今度の幽霊は勝ったも同然。早速カカシを呼んで参れ!」
「いや、三代目、あの無理だって!ちょっと、じっちゃん!・・・・ああああ、行っちゃった…」


叫びながら、高笑いと共に厠へ向かった三代目の後ろ姿に、こっそりとため息をついて。
イルカは壁の幽霊に苦笑を送った。


・・・

「と、言うわけなんですけども」
「じゃあ、今日がそのXデーなんですね」
「そうそう、Xデー。Xマスだけに、って、XmasのXはXデーのXではないですよ」
「相変わらず、そういうのに厳しいねイルカは」
ハハハといいながら、寺の縁側で茶を飲む。
寒い季節は熱くて渋い抹茶が一番だ、というのは二人の数少ない一致した意見だ。

イルカが横目でカカシを見ると、飄々とした態度でありながらも、
手首のスナップを活かして高速お茶立てをしている。

寺の人間は、茶道に長けているものが多い。

茶禅一昧とはよく言ったもので、
こうして茶を立てている時、
まるで禅を行っているかのごとく精神が落ちつく事に由来するが、
このカカシに至ってはその限りではない。

ただ、甘いものが苦手であり、渋い茶が好きなだけだ。

かくいうイルカも、カカシが苦手だと言いながら
茶とともに出してくる菓子目当てでここに来ているのだから、
人の事にどうこう言える立場ではないのである。

「で、俺は何をすれば良い訳?」
「幽霊退治じゃないですか?」
「壁の中の?」
「そうそう…、はあ…」
イルカの大きくため息をつく様に、カカシがくすりと笑う。
「イルカのご主人様は面白いねえ…。修行の合間の良い暇つぶしになるよ」
「それ、絶対、三代目には言わないで下さいね。あとで怒られるの俺なんですから」

そしてちらりとカカシを見て、またため息をついた。


「あんた、とっくに悟りひらいてません?」


・・・


イルカがそれこそ幽霊に取り憑かれたかのように疲れた顔で、将軍の部屋にはいる。
その後ろには、すました顔のカカシが控えていた。
それを見た三代目は、イルカを見て心底嬉しそうに笑い、
後ろのカカシを見て、
笑っているとも憎んでいるともつかない風に顔を歪めて手招きした。

「ようきた、カカシよ」
「先日はどうも」
「そうじゃのう、国宝の屏風を台無しにしおって」
「俺は言いつけの通り、虎退治をしただけですよ」
「お前とは絶対に友達になれんな。冗談に槍を投げつけるような真似をしおって」
「冗談でもなんでも、虎を退治できなかったらイルカと別れろって言っていたでしょうに」
「当然じゃ!そのための頓智合戦じゃ!」

まるで子供の喧嘩のように、フンっと鼻息を出してお互いがそっぽを向くのに、
間に挟まれたイルカは大仰にため息をついて項垂れ、
諦めたように部屋の脇に座り込んだ。

カカシがちらりと見るのを感じて、「もう勝手にしてくれ」とばかりに両手を広げてみせれば、
笑顔で手を振り返される。
イルカはそれにも脱力して。
不貞腐れたように胡坐をかいて、二人のやりとりを傍観することに決め込んだ。


「で?今日はどのような御用で?」
「っそうじゃ!聞いて驚け!今回お主に頼みたいのは、これの退治じゃ!」

三代目が背後の布をばっと取ると、布の下に恐ろしい女性の絵がかかれている石の壁が現れる。
「こやつは、フンフン年前に幽霊になったおなごでな。とある有名な画家がこの壁に閉じ込めたという伝承がある。
が、最近、夜な夜な壁から出て来ては城の皆を怯えさせるようになっての。
こやつを退治してほしい。どうじゃ出来るか?」

三代目が鼻息も荒く、カカシにどうだと自慢気に胸を張る。

「前のように槍は通らん。壁を壊しても、こやつは幽霊じゃ」

予定通りのセリフを言い終えて満足な三代目をよそに、
イルカがカカシを見れば、その壁の女性をじっと見て考え込むような仕草をしていた。

そして、聞いたこともない低い声で、呟くように三代目に問いかけた。
「これ、どなたが描かれた絵ですか?」
カカシの言葉に、待ってましたとばかりに三代目が声を張り上げる。
「聞いて驚け!水墨画で人間国宝で狩野派のサイじゃ!」

サイといえば、水墨画の大家であり、若くして名声を手に入れた実力画家だ。
描かれた絵には魂が宿るようだと言われており、
イルカも生でその絵を見るのは初めてなので、とたんに絵に興味を持ち身を乗り出した。

そのイルカを手で庇うようにカカシが止める。

「どうやら、今回は本当のようですね」

苦々しくカカシが言うのに、三代目はニヤリと笑う。
「ほほう、とうとう負け惜しみが出おったか!ならば…」
三代目が言いかけるのを手で止めて、カカシが壁の前にドンと座り込んだ。

「三代目も、少し離れて。危ないです」
「槍で刺される以上にか」
「だから、それはやりすぎました、ごめんなさい。でも今回はちょっと本気なので」
目線でイルカに言えば、イルカは三代目の手を引いて、カカシの後ろに立つ。

「カカシさん?」
「うん。そこでいい。じゃ、除霊を始めます」

ジャラン。
カカシが大きめの数珠を振りかざして、壁の絵に突き付ける。

「偈!」

そして低い、良い声で観音経を読み上げはじめた。

そのあまりの迫力と、
幽霊退治を、最も得意とするであろう寺の僧に頼んでしまった事に今更気づいた三代目が、
少し青い顔をしながらイルカとカカシを交互に見ている。

淀みない心地よいお経が部屋に響き渡る。

おどおどそわそわしている三代目をよそに、
イルカは、ただ、お経を読み上げただけじゃ、幽霊退治したとは言えないだろうなーと、気楽に思っていた。
そのあと、どういう展開になれば三代目は納得するのだろうかと、つらつら考える。
それから、三代目の用意したウソ幽霊にここまでのパフォーマンスをするカカシも、凄いなあと感心していた。


しかし、ふと。

気づいてしまった。

普段すました顔しかしていないカカシのこめかみに、

玉のような汗。


え?と、目の前の絵の描かれた壁を見ると。

イルカは背筋が凍るような思いがした。

壁の中の幽霊が。
まるで生きているかのように。

お経の声に合わせて踊るかのように、
苦しみ悶え…。

「うわああああ!カカシさん!何あれ本物??!絵が動いてる!」
イルカの叫びに、カカシがハッとこちらを振り向く。
「黙ってイルカ、奴は大きな声に反応する!」

しかしカカシの言葉も空しく、
壁の中の幽霊は悶えながらもイルカを見つけてしまったようだ。

イルカと女の目線が絡む。

苦しそうに歪んでいた女の顔が、次の瞬間、目だけニタリと弧を描いた。

まるで、射貫かれたかのように、イルカは動けなくなってしまう。
日ごろの鍛錬など、幽霊相手には通用しないと痛感する。
背筋に嫌な汗がダラダラと流れた。

幽霊は悶えながらも壁からズルリと音を立てるかのように抜け出してきた。
そしてそのまま、這いつくばった体勢で、


ずるり、ずるりと。


カカシのお経の声が大きくなる。力が入っている。
それは確実に幽霊に効いているようで、近づくたびに悲痛なうめき声を漏らしている。
女が通った畳には、まるでナメクジは這ったかのような水の跡。

女の墨絵特有の繊細な手が、
まるで骨で出来た熊手のように畳を刺して、ひっかいていた。

そして、一歩、一歩。
ジクリ、ジクリとイルカに近づき。


少し顔を上げて。


切り裂かれた口で笑った。


三代目とイルカが声にならない声をあげて叫ぶ。


次の瞬間、幽霊が目の前から、ふと消えた。

「しまっ」
カカシが言うよりも早く、イルカが仰け反って「ぎゃあああああ」と叫び始めた。

「イルカ!貴様、イルカから出てこい!」
「ぎゃあああああああ」
「いる、イルカや!イルカ!」

三代目がアワアワとイルカに縋ろうとするのをカカシが襟を掴んで投げ飛ばす。
「アンタまで憑りつかれるぞ!外に出ておけ!」


三代目は抜けた腰で、尻を付けた体勢で後ずさり。
首をかきむしるイルカを見ながらも何もできずに。
そして、カカシに言われた通りに部屋から出るしか、
方法がなかったのである。



中からはイルカの叫び声と、カカシのお経の声が、何時間も響いていた。


・・・


「で?」
「三代目も俺たちの仲を許して下さるそうですよ」
「まあ、あの人の持ち込んだ幽霊を退治してあげたしねえ」

夕方。
仕事を終えたイルカが寺までやってきたのに、カカシは優しく招き入れ、茶をたててやる。
それに嬉しそうにイルカは手を伸ばして、
カカシにニコリと笑った。

三代目も、今回の件で二人の仲を許さざるを得なかったのだろう。
苦渋の選択だったのが、イルカの言葉の端々から感じるのに、
カカシもクスリと笑う。

「イルカの演技、凄すぎたもんね」
「もー、唐突にアイコンタクトしてくるんですもん。無茶ぶりもいい所ですよ」
イルカが照れながらも口を尖らせて文句を言うのに、アハハハとカカシが笑った。

「あ、そうだ、あれ。どうやったんですか?なんで絵が動いていたんです?」
イルカが思い出したようにカカシに聞いた。

「あの絵は、俺が事前にすり替えた、ただの壁に白い紙を貼っていたものだったんだよ」
「え?でも、実際に絵が動いていたでしょ?」
「そうそう、壁の後ろにテンゾウが控えていてね。パラパラ漫画の要領で絵の描いた紙を高速で入れ替え」
「待って待って待ってください、想像したら笑えて来るのでやめてください」
「なんでよ。テンゾウも迫真の演技だったし後で褒めてあげてよ。壁から出てきた幽霊もテンゾウの変装だよ」

そこまできいて、一瞬あっけにとられたイルカは、
次の瞬間、笑い転げてしまう。

イルカの笑い声を聞きつけて、カカシの後輩である僧、テンゾウもやってくる。
「先輩も人使い荒いんですよね。僕、幽霊退治を頼まれたことはあっても、幽霊になったのは初めてです」
「良い幽霊だったよテンゾ」

隣で、笑いが止まらず腹を抱えてフルフル震えているイルカを眺めて、カカシとテンゾウもたまらず一緒に笑う。


外は雪。
寺の常緑樹に、綺麗な白が降り注ぐ。
誰かが参拝に来たのだろうか。
賽銭箱の鈴がガラガラと大きな音を立てた。

まるで遠くで生まれた神様を祝うかのように。


もうすぐ除夜の鐘が始まる。
僧の年末は忙しいのだ。
しかし、イルカとの仲が将軍公認になった気の晴れは、その忙しさも乗り越えられる活力になるなあと。
カカシは笑いながら思うのだった。



なんじゃそりゃ。(めでたしめでたし)

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